日本画とは?


一番の特徴は、なんといっても絵具の美しさ!
群青、緑青、朱、胡粉。胡粉は白い絵具の事。
あの美味しい牡蠣の殻を粉にして作ります。
群青はよくご存知ですね。深い深いブルー。原料は石。鉱物です。
緑青も奥床しい緑、孔雀石という原石を粉にして作るんです。
加えて、金と銀。金の泥とかいて金泥(きんでい)と呼びます。
銀泥も美しい色ですね。

そう。日本画は、宝石を砕いて絵の具にするのです。
さぞ高価だと思う事でしょう。
でも天然絵具は、人口絵具とは比べ物にならないくらい色相が豊かで
厚塗りしなくても深みのある色がでるので、使う量は実はごくわずか。
人口絵具を手間暇かけて重ね塗りするよりも楽で安上がりな場合もあるんです!
ただ初心者のうちは、使い方をよく知らないのに
高価な天然絵具を塗り重ねて挙げ句塗りつぶしてしまい、残念。
なんてこともありますが…。

それに、天然絵具が必ずしも高価というわけでもありません。
キラといって、雲母を粉にしたもの。独特の表情を生み出し、
その昔、光悦と宗達が合作した絵巻物の地塗りはみんなこのキラでした。
光悦と宗達って?これは日本百名人の方をよくご覧下さい。

絵具の名前がまた素敵です。
珊瑚沫(さんごまつ)、銀鼠(ぎんねず)、岩緋(いわひ)、
金茶(きんちゃ)、利休白茶(りきゅうしらちゃ)、錆朱(さびしゅ)等々。
日本語の豊かさ。日本人の感性の深さがよくわかりますね。


さてこれら粉末の絵具を和紙に描くのですが、どうやってくっつけるのか。
水で溶いて塗ったって、乾けばポロポロ落ちてしまいますね。
膠(にかわ)という接着剤で絵具を練り合わせ、
水を加えて描きやすい濃度にして使います。
和紙はよくご存知。木の繊維が複雑に絡み合って出来ていますから
膠で練られた絵具がよく定着しやすいようにできているのです。
大の大人がふたりで思いっきり引っぱりあっても
やぶけないくらい強靭な和紙は大昔から日本の山村の副業でした。
農閑期の貴重な収入源だったのです。
なにせ昔はティッシュ200円で5箱なんて便利さはありませんから
ちり紙一つから全て和紙職人が汗水垂らして漉いていました。
紙の質は和紙職人や生産地によって違ってくるため、
厳密に言うと同じ和紙はこの世に2枚とありません。

楮(こうぞ)という木が主な原料。三叉(みつまた)という木も原料になります。
イタリアの版画工房で、現在使用されている最高級の版画用紙は
和紙だということをご存知ですか?
世界に向けて一大産業になる可能性さえあるのです。


筆は、お習字の筆と実はほぼ同じです。
ただ、粒子の粗い絵具を塗る時のために、彩色筆や平筆などもあります。
ついこの間まで、日本には鉛筆がありませんでした。
何をするにも筆と墨。誰でも今の人よりは字が上手。
相当昔から日本人の識字率はダントツ世界一だったそうですから、
絵は描けなくたって字は上手。毛筆の達人だらけだったわけです。


最後に、日本画の最大の特徴についてですが、
これは前述のように、日本人が毛筆を好んでいた事に始まります。
線で始まり、線で終るのが日本画です。
何度も消しては描き直し、本物そっくりに近づけていく外国の絵画に対して、
修正のきかない、墨の一筆書きによって描かれる日本画は、
大胆で抽象的で、実物よりも美しく印象的な世界を演出しています。

ただ、鉛筆がなく消しゴムで消せないから仕方なく…というのは誤解です。
賢い日本人は消しゴムの代わりに、アヤメの花などを使っていました。
アヤメの青い花をしぼり、その液体を筆に含ませて描くと、あら不思議。
時間が経つと消えてしまうのです。花の汁でガイドラインを引いたあと、
墨で本描き。という技法も存在していました。
ただ日本人は、この抽象化された美を求め続けたのでした。


本物の通りに描くを目標にしたのが外国。

本物らしく描くを目標にしたのが日本。



と覚えて頂ければ、間違いはありません。

それでは、日本画とはなんなのか?
詳しくは天山先生の語る日本画の魅力を御熟読下さい。
(重たい話なので暇な時が良いと思いますよ)
理屈はとにかく、日本人らしく描くのが日本画です。
まずはサイトをごゆっくりご覧になって、その魅力に浸ってみて下さい。




日本画の画材とは?


日本画の絵具は「岩絵具」と呼ばれ、
天然鉱物質を細粒に砕いて使用します。
女性達が愛して止まないジュエリーの貴金属をはじめ、
珊瑚や孔雀石など宝石にも準ずる奇石を溶いて色素とする日本画は、
半永久的にその美しい発色を保ち続けます。

当アトリエの作品群に使用されている画材の一部を
こちらにてご紹介させて頂きます。

《群青色》

澄み切った青空の色、群青(ぐんじょう)は
藍銅鉱(あいどうこう)という原石を砕いたものです。粒子の大きさの調整をし、
最も細かいものを白群(びゃくぐん)と呼び、
いわゆる水色の深みのある色調になります。
原石の色の濃さによって発色が違うので、同じ白群と呼ばれても
感じのいくらか違う絵の具が幾種類も生まれ、
さらに粒子の大小でも異なってくるので
ほぼ数えきれないぐらいの色数になるのです。
番号の多いのが細かい粒子、
数字が若いと濃い色で粗い粒子と決められて市販されています。

《白色》

白は、胡粉(ごふん)と呼ばれる牡蠣の殻から精製された純白。
これも細粒のものほど上質とされていて、
飛切(とびきり)と呼ばれるグレードが最上質。
ただ、用途によって粗い目の胡粉も大切な役割を担うので、
上質でさえあれば良いとも言えません。

《朱色》

朱は、辰砂(しんしゃ)と呼ばれる水銀を含有した鉱物原料。
朱の赤さが深く、輝くような明るさを持つものは最も珍重されますが、
原石の良質なものからわずかにしかとれないので、高価でしかも希少。
現代においてもなかなか手に入りません。

《緑色》

緑は孔雀石。これも原石の良否に大いに左右されますが、
緑青(ろくしょう)と美称されるかかせない絵の具です。


《金色・銀色》

金泥(きんでい)銀泥(ぎんでい)など、泥という文字を使う金属粉も特徴です。
金箔をすり潰して作るので、金箔よりも貴重なものですが、
使用する技によって光沢を引き出せるという不思議な材料です。

金箔もまた、金の展性を利用し画面を金金に輝かすのに適しています。
当アトリエの色紙画をはじめ、豆軸の小箱にも一部使用しております。


《黒色》

日本画に一番大切なのが、線。
主に墨で描かれる線ですが、この墨が一番高価だということは
なかなか通でなければ知らない事実です。
書道家の方ならばよくご存知ですが、
墨色は古来非常に大切にされてきました。
良い色の墨を得る事が、良い書、美しい絵を生み出す為の第一歩だからです。

松煙墨(しょうえんぼく)といって、
松の木を燃やして生まれるすすを集めて作った墨が最上とされています。
青墨(せいぼく)と呼ばれる、青みがかった黒色です。
普通に墨と呼ばれて市販されているものは、
菜種油を無理矢理不完全燃焼させて、すすばかり出るよう工夫し、
出来たすすを膠(にかわ)で機械的に練り合わせ、人工的に乾燥させたもの。
ちょっと比べればすぐ分かるほど茶色い黒をしています。
その対局にあるのが、明墨(みんぼく)といって、
中国明時代に2人の墨作り名人が競って生み出した松煙墨です。
その時にできた墨が今だに日本画材の貴重な墨として
王者の様に君臨しているのです。
程君房(ていくんぼう)と方于魯(ほううろ)という2大名人の墨。
これは美しい。この2人は漢族ではないらしく、
日本人のように器用で繊細で、辛抱強く、王様の命令に従って
美しい青墨を生み出す事に命をかけました。

あとりえ天山の作品には、すべてこの2人のキワモノの墨が使用されています。
日本画にかかせない線。300年も前の良い具合に枯れた明墨によって、
当アトリエの作品達は生み出されているのです。


あとりえ天山・日本画教室の御案内はこちら